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西村京太郎
西村京太郎を模倣し、『JR福知山線脱線事故』を題材にした小説、「終着駅の迷宮」(ラビリンス)第七十五章
第七十五章 外部取締役の影 雨は上がったはずなのに、神戸地裁の石畳はいつまでも濡れて見えた。朝の空気は冷たく、背広の裏地まで湿りを含んでいる。検事・西村は庁舎の壁にもたれ、封筒のコピーをもう一度目でなぞった。 ――《安全投資の今期繰延(案... -
西村京太郎
西村京太郎を模倣し、『JR福知山線脱線事故』を題材にした小説、「終着駅の迷宮」(ラビリンス)第七十三章・第七十四章
第七十三章 会議室の亡霊 六月半ばの朝、神戸地方裁判所の周辺には、いつも以上の報道陣が詰めかけていた。 傘を差した記者たちが玄関前に列をなし、手元の携帯端末で絶えず記事を送信している。中継車のアンテナが空へ突き立ち、まるで戦場の前線基... -
西村京太郎
西村京太郎を模倣し、『JR福知山線脱線事故』を題材にした小説、「終着駅の迷宮」(ラビリンス)第七十一章・第七十二章
第七十一章 頂点の影 法廷の空気は、これまで以上に緊迫していた。 内部メールという“決定的証拠”が提出されたことで、これまで防御一辺倒だった検察は一気に攻勢に転じた。次に狙うのは――経営陣。組織の頂点に立つ人間たちである。 証人申請の衝撃 ... -
西村京太郎
西村京太郎を模倣し、『JR福知山線脱線事故』を題材にした小説、「終着駅の迷宮」(ラビリンス)第六十九章・第七十章
第六十九章 沈黙の壁 法廷を出た田所正志の背中を、多くの視線が追っていた。 記者たちは口々に「組織的隠蔽」という言葉を繰り返し、テレビカメラが赤いランプを光らせて彼の姿を映す。 しかし田所は立ち止まらず、うつむいたまま裁判所の石段を降... -
西村京太郎
西村京太郎を模倣し、『JR福知山線脱線事故』を題材にした小説、「終着駅の迷宮」(ラビリンス)第六十七章・第六十八章
第六十七章 証言の裂け目 法廷の空気は、もはや日常のそれとはかけ離れていた。 梅雨明けの強い陽射しが法廷の窓から斜めに差し込み、傍聴席に集まった人々の顔を白く照らし出している。六月から続いた公判も、すでに夏を迎えていた。汗をぬぐう人々... -
西村京太郎
西村京太郎を模倣し、『JR福知山線脱線事故』を題材にした小説、「終着駅の迷宮」(ラビリンス)第六十五章・第六十六章
第六十五章 裁きの影 裁判所の廊下には、重い沈黙が漂っていた。窓から射し込む午後の光が、冷たいタイルの床に斜めの影を描いている。傍聴を終えた人々は口数少なく、記者たちは手にしたメモを見つめたまま無言で歩いていた。空気の中に、どこか「終わ... -
西村京太郎
西村京太郎を模倣し、『JR福知山線脱線事故』を題材にした小説、「終着駅の迷宮」(ラビリンス)第六十三章・第六十四章
第六十三章 揺れる証言の狭間で 法廷の空気は、かつてないほどに張りつめていた。午前十時を告げる鐘が裁判所の中庭に響き渡った頃、傍聴席には既にぎっしりと人が詰めかけていた。福知山線脱線事故をめぐる裁判は、世間の注目を集め続けてきたが、この... -
西村京太郎
西村京太郎を模倣し、『JR福知山線脱線事故』を題材にした小説、「終着駅の迷宮」(ラビリンス)第六十一章・第六十二章
第六十一章 沈黙の証言 春の気配が遠のき、神戸地裁の法廷には重苦しい空気が立ち込めていた。窓から射し込む淡い光さえ、冷たい石の壁に吸い込まれてしまうかのようであった。傍聴席には報道陣と遺族が静かに並び、その視線が一様に証言台へと注がれて... -
西村京太郎
西村京太郎を模倣し、『JR福知山線脱線事故』を題材にした小説、「終着駅の迷宮」(ラビリンス)第五十九章・第六十章
第五十九章 消えた証拠 冬の冷たい雨が東京地裁の石畳を濡らし、重苦しい空気が裁判所全体を包んでいた。傘を差した記者たちが、被告人や弁護士、証人たちの動きを追って入口に群がる。まるで獲物を狙う獣の群れのように。 法廷内では、緊張の糸が張... -
西村京太郎
西村京太郎を模倣し、『JR福知山線脱線事故』を題材にした小説、「終着駅の迷宮」(ラビリンス)第五十七章・第五十八章
第五十七章 残響の果てに 裁判所の重い扉が閉まると同時に、傍聴席の空気は張り詰めた。前日の証人尋問で突きつけられた決定的な矛盾――被告人のアリバイの根幹を揺るがすその証言は、もはや単なる偶然では片付けられなかった。陪審員たちの眼差しは硬く...