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佐藤愛子
佐藤愛子を模倣し、野坂昭如の「火垂るの墓」時代を題材にした完全オリジナル長編小説『灰の味――或る少年の季節』第百十六章・第百十七章
第百十六章 灯の間合い──影が「踏み出さない一歩」を知った昼 昼、少年は自分の足元にある一歩分の空きに気づいた。 踏み出せば進める。 踏み出さなければ留まれる。 どちらでもいい位置。 だが、今日は踏み出さない。 踏み出さないことが、... -
佐藤愛子
佐藤愛子を模倣し、野坂昭如の「火垂るの墓」時代を題材にした完全オリジナル長編小説『灰の味――或る少年の季節』第百十四章・第百十五
第百十四章 灯の一滴──影が「与えすぎない水」を選んだ夜 夜、少年は水の音を聞いた。 ぽと、と落ちる音。 大きな流れではない。 桶をひっくり返すような派手さもない。 ただ、一滴。 一滴は、渇きを裏切らない。 一滴は、渇きを誇張もしな... -
佐藤愛子
佐藤愛子を模倣し、野坂昭如の「火垂るの墓」時代を題材にした完全オリジナル長編小説『灰の味――或る少年の季節』
第百十二章 灯の静脈──影が「流れを止めない」朝 朝、少年は自分の身体の中に、細い流れがあるのを感じた。 音を立てない流れ。 急がない流れ。 止めようとしても止まらず、掴もうとしても形を持たない流れ。 それは血の流れに似ているが、血そ... -
佐藤愛子
佐藤愛子を模倣し、野坂昭如の「火垂るの墓」時代を題材にした完全オリジナル長編小説『灰の味――或る少年の季節』第百十章・第百十一章
第百十章 灯の輪郭──影が「ぼやけた境」を肯定した夕方 夕方、少年は物の輪郭が少しずつ溶けていくのを感じた。 昼の白さが去り、夜の濃さが来るまでの短い時間。 色は減り、影は伸び、境目は曖昧になる。 この時間帯は、物事にはっきりした答えを与... -
佐藤愛子
佐藤愛子を模倣し、野坂昭如の「火垂るの墓」時代を題材にした完全オリジナル長編小説『灰の味――或る少年の季節』第百六章・第百七章
第百六章 灯の余熱──影が「消えたあと」を信じた昼 昼、少年は掌に残る温かさの理由を考えなかった。 火に触れたわけではない。 灯が戻ったわけでもない。 それでも、掌はほんのりと温かい。 その温かさは、触れた記憶ではなく、触れなかった時... -
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佐藤愛子を模倣し、野坂昭如の「火垂るの墓」時代を題材にした完全オリジナル長編小説『灰の味――或る少年の季節』
第百八章 灯の明け方──影が「起きる前」を受け入れた朝 明け方、少年はまだ暗さの残る空を見上げ、夜と朝の境目に立っていた。 立っている、というより、置かれている。 夜が去り、朝が来る、その間に、人の意思が入り込む余地はほとんどない。 ... -
佐藤愛子
佐藤愛子を模倣し、野坂昭如の「火垂るの墓」時代を題材にした完全オリジナル長編小説『灰の味――或る少年の季節』第百四章・第百五章
第百四章 灯の受け渡し──影が「渡さないまま渡す」夜 夜、少年はふと、自分の中にあるものが誰かへ移っている気配を感じた。 移るといっても、言葉で教えたわけではない。 手渡したわけでも、説明したわけでもない。 ただ、今日一日の立ち方、椀... -
佐藤愛子
佐藤愛子を模倣し、野坂昭如の「火垂るの墓」時代を題材にした完全オリジナル長編小説『灰の味――或る少年の季節』第百二章・第百三章
第百二章 灯の引き算──影が「足さない暮らし」を始めた午後 午後、少年は自分が何かを“足さなくなっている”ことに気づいた。 言葉を足さない。 理由を足さない。 勇気を足そうともしない。 慰めを足そうともしない。 代わりに、必要のないも... -
佐藤愛子
佐藤愛子を模倣し、野坂昭如の「火垂るの墓」時代を題材にした完全オリジナル長編小説『灰の味――或る少年の季節』第百章・第百一章
第百章 灯の行き先──影が「先を決めない」朝 朝、少年は戸口に立って、外の光を一度だけ見た。 見る、というより、測るに近かった。 今日の光は白い。 暖かさを約束しない白だ。 だが、拒みもしない。 行き先を示さない光は、歩き出す者にだ... -
佐藤愛子
佐藤愛子を模倣し、野坂昭如の「火垂るの墓」時代を題材にした完全オリジナル長編小説『灰の味――或る少年の季節』第九十八章・第九十九章
第九十八章 灯の余白──影が「書かない行」を残した夜 夜、少年は机代わりの板切れを片づけながら、紙切れの端に残った余白に目を留めた。 一行だけ書いた紙は、まだ使える。 使える、という言い方が、今日はしっくりこなかった。 余白は、使うために...