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佐藤愛子
佐藤愛子を模倣し、野坂昭如の「火垂るの墓」時代を題材にした完全オリジナル長編小説『灰の味――或る少年の季節』第百三十六章・第百三十七章
第百三十六章 灯の引き潮──影が「求めない返礼」を選んだ昼 昼、少年は“返礼”を求めなかった。 求めなかった、というより、 求める前に手を離した。 手を離すと、何も残らないように見える。 だが実際には、 求めない余地が残る。 余地が残... -
佐藤愛子
佐藤愛子を模倣し、野坂昭如の「火垂るの墓」時代を題材にした完全オリジナル長編小説『灰の味――或る少年の季節』第百三十四章・第百三十五章
第百三十四章 灯の戻り道──影が「遅れて合流する勇気」を持った夜 夜、少年は遅れた。 遅れたのは、走らなかったからだ。 走らなかったのは、熱を生まないためだ。 熱を生まないために、会わない選択をした夕方があった。 だが会わない選択のあ... -
佐藤愛子
佐藤愛子を模倣し、野坂昭如の「火垂るの墓」時代を題材にした完全オリジナル長編小説『灰の味――或る少年の季節』第百三十二章・第百三十三章
第百三十二章 灯の薄明──影が「名づけない始まり」を迎えた昼 昼、少年は“始まり”に名前を付けないことにした。 始まりに名前を付けると、終わりが先回りする。 終わりが先回りすると、途中が急かされる。 急かされる途中は、息が荒くなる。 荒... -
佐藤愛子
佐藤愛子を模倣し、野坂昭如の「火垂るの墓」時代を題材にした完全オリジナル長編小説『灰の味――或る少年の季節』第百三十章・第百三十一章
第百三十章 灯の見取り図──影が「迷いを残す道」を許した夜 夜、少年は道を間違えた。 間違えた、と言っても、目的地があるわけではない。 ただ、いつもの角を曲がらず、一本手前の細い路地へ入ってしまった。 入った瞬間、空気が変わった。 湿... -
佐藤愛子
佐藤愛子を模倣し、野坂昭如の「火垂るの墓」時代を題材にした完全オリジナル長編小説『灰の味――或る少年の季節』第百二十八章・第百二十九章
第百二十八章 灯の余白──影が「埋めない沈黙」を抱えた昼 昼、少年は言葉の余白に足を止めた。 朝、返し口を通って外へ出た言葉のあとに、 何も残らなかったのではない。 残ったのは、埋めなくていい空き。 空きは欠けではない。 欠けは塞ぎ... -
佐藤愛子
佐藤愛子を模倣し、野坂昭如の「火垂るの墓」時代を題材にした完全オリジナル長編小説『灰の味――或る少年の季節』第百二十六章・第百二十七章
第百二十六章 灯の間借り──影が「借りて返す時間」を許した夜 夜、少年は自分がこの世界に間借りしているのだ、という感覚にふと包まれた。 住んでいる家も、歩いている道も、見上げる空も、どれも自分の所有ではない。 所有でないから、失うという... -
佐藤愛子
佐藤愛子を模倣し、野坂昭如の「火垂るの墓」時代を題材にした完全オリジナル長編小説『灰の味――或る少年の季節』第百二十四章・第百二十五章
第百二十四章 灯の影法師──影が「形を持たない約束」を結んだ昼 昼、少年は自分の足元に落ちる影が、さっきより少し短くなっているのに気づいた。 雲が動いたのだろう。 太陽が高くなったのだろう。 理由を探す気にはならなかった。 影は、理由... -
佐藤愛子
佐藤愛子を模倣し、野坂昭如の「火垂るの墓」時代を題材にした完全オリジナル長編小説『灰の味――或る少年の季節』第百二十二章・第百二十三章
第百二十二章 灯の置き場──影が「胸にしまわない記憶」を選んだ夜 夜、少年はふと、自分が“胸”という場所を使いすぎていたことに気づいた。 胸にしまう。胸に刻む。胸に抱く。胸を痛める。胸を張る。 胸は便利だ。何でも入る。何でも言い訳になる。... -
佐藤愛子
佐藤愛子を模倣し、野坂昭如の「火垂るの墓」時代を題材にした完全オリジナル長編小説『灰の味――或る少年の季節』第百二十章・第百二十一章
第百二十章 灯の手触り──影が「確かめすぎない存在」を抱いた昼 昼、少年は物の手触りに注意を向けた。 瓦礫の縁に触れたときのざらつき。 木の柱に残る、焦げと乾きの混ざった感触。 土の上に落ちた布切れの、軽さ。 それらは確かに“ここにある”の... -
佐藤愛子
佐藤愛子を模倣し、野坂昭如の「火垂るの墓」時代を題材にした完全オリジナル長編小説『灰の味――或る少年の季節』第百十八章・第百十九章
第百十八章 灯の影送り──影が「渡して忘れない」夜 夜、少年は影の輪の外側に立ち、輪の中へ入る前に一度だけ手を見た。 掌は空だ。 握っていない。 持っていない。 なのに、確かに何かを渡した感覚が残っている。 昨日の余白を置いてきたは...