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佐藤愛子
佐藤愛子を模倣し、野坂昭如の「火垂るの墓」時代を題材にした完全オリジナル長編小説『灰の味――或る少年の季節』第百五十六章・第百五十七章
第百五十六章 灯の間欠──影が「続けない勇気」を朝へ手渡した朝 朝、少年は続けなかった。 昨日の続きを、そのまま引き受けなかった。 引き受ければ、楽だ。 楽は、速い。 速いと、形が固まる。 固まると、外れたものが目立つ。 目立つと、... -
佐藤愛子
佐藤愛子を模倣し、野坂昭如の「火垂るの墓」時代を題材にした完全オリジナル長編小説『灰の味――或る少年の季節』第百五十四章・第百五十五章
第百五十四章 灯の渡り板──影が「踏み切らない勇気」を置いた夕方 夕方、少年は渡り板の前で立ち止まった。 川というほどではない。 溝というほど浅くもない。 雨水が集まって、細く流れている。 その上に、一本の板が渡してある。 踏めば向... -
佐藤愛子
佐藤愛子を模倣し、野坂昭如の「火垂るの墓」時代を題材にした完全オリジナル長編小説『灰の味――或る少年の季節』第百五十二章・第百五十三章
第百五十二章 灯の呼吸孔──影が「塞がない穴」を残した朝 朝、少年は壁の小さな穴に気づいた。 瓦礫の陰、崩れた土壁の際に、指一本ほどの穴がある。 風が、そこを通る。 通るといっても、強くはない。 音を立てず、 匂いだけを運び、 温度... -
佐藤愛子
佐藤愛子を模倣し、野坂昭如の「火垂るの墓」時代を題材にした完全オリジナル長編小説『灰の味――或る少年の季節』第百五十章・第百五十一章
第百五十章 灯の縁石──影が「止まらない流れ」を許した夕方 夕方、少年は縁石に腰を下ろした。 座ったが、止まらなかった。 止まらなかったのは、立ち上がらなかったからではない。 流れを切らなかったからだ。 道の端にある縁石は、歩行を止め... -
佐藤愛子
佐藤愛子を模倣し、野坂昭如の「火垂るの墓」時代を題材にした完全オリジナル長編小説『灰の味――或る少年の季節』第百四十八章・第百四十九章
第百四十八章 灯の土間──影が「踏み固めない場所」を残した朝 朝、少年は土間に立った。 板の間でも、外でもない。 靴を履くほど遠くなく、 裸足になるほど近くもない。 境目の場所。 土の匂いがして、 足裏が少しだけ沈む。 踏めば跡が... -
佐藤愛子
佐藤愛子を模倣し、野坂昭如の「火垂るの墓」時代を題材にした完全オリジナル長編小説『灰の味――或る少年の季節』第百四十六章・第百四十七章
第百四十六章 灯の薄荷──影が「痛みを冷ます匂い」を拾った夕方 夕方、少年はふと、空気が少しだけ冷たく匂うことに気づいた。 冷たいのではない。 冷たく感じる匂い。 湿った土の匂いでも、煤の匂いでもない。 鼻の奥がすっと通るような、薄い... -
佐藤愛子
佐藤愛子を模倣し、野坂昭如の「火垂るの墓」時代を題材にした完全オリジナル長編小説『灰の味――或る少年の季節』第百四十四章・第百四十五章
第百四十四章 灯の脈拍──影が「急がせない時間」を抱いた朝 朝、少年は時間を急がせなかった。 時計はなかった。 鐘も鳴らなかった。 だが胸の奥で、脈が打っている。 脈は、命の合図だ。 合図は速さを命じない。 速さを命じるのは、外から... -
佐藤愛子
佐藤愛子を模倣し、野坂昭如の「火垂るの墓」時代を題材にした完全オリジナル長編小説『灰の味――或る少年の季節』第百四十二章・第百四十三章
第百四十二章 灯のはしご──影が「上がらない高さ」を残した朝 朝、少年は“上がらない高さ”に救われた。 はしごがあった。 瓦礫の壁に立てかけられた古い木のはしご。 上へ行ける。 高いところへ行けば、遠くが見える。 遠くが見えれば、安心... -
佐藤愛子
佐藤愛子を模倣し、野坂昭如の「火垂るの墓」時代を題材にした完全オリジナル長編小説『灰の味――或る少年の季節』第百四十章・第百四十一章
第百四十章 灯の間合い──影が「答えを遅らせる手」を覚えた昼 昼、少年は答えを遅らせた。 遅らせたのは、分からなかったからではない。 分かりすぎると、手が早くなる。 手が早くなると、相手の息を追い越す。 追い越すと、会話は競争になる。... -
佐藤愛子
佐藤愛子を模倣し、野坂昭如の「火垂るの墓」時代を題材にした完全オリジナル長編小説『灰の味――或る少年の季節』第百三十八章・第百三十九章
第百三十八章 灯の風通し──影が「閉めない扉」を残した夜 夜、少年は扉を閉めなかった。 閉めれば、安心は得られる。 だが同時に、外は締め出される。 締め出されると、境目が硬くなる。 境目が硬くなると、内と外は対立を始める。 対立が始...