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西村京太郎を模倣し、『JR福知山線脱線事故』を題材にした小説、「終着駅の迷宮」(ラビリンス)第七章・第八章
第七章 企業の中枢 大阪本社の高層ビルは、朝の日差しを跳ね返していた。交通網の要を担う企業の本拠地は、まるでその責任の重さを象徴するかのように、巨大で無機質だった。 十津川と亀井は、社員通用口から静かに入館し、応接室へと通された。 「副... -
西村京太郎を模倣し、『JR福知山線脱線事故』を題材にした小説、「終着駅の迷宮」(ラビリンス)第五章・第六章
第五章 記録の闇 大阪・弁天町、JR西日本本社の一角。 八階にある「技術戦略本部」は、事故発生以来、社内でも極端に閉ざされた場所と化していた。 重たい扉を開けた十津川警部と亀井刑事は、受付職員に面会を告げた。 「本部長代理・藤原浩一氏に、先日... -
西村京太郎を模倣し、『JR福知山線脱線事故』を題材にした小説、「終着駅の迷宮」(ラビリンス)第三章・第四章
第三章 十津川、尼崎へ 事故から三日後、四月二十八日午前。 JR尼崎駅南口のロータリーでは、数日前の騒然とした雰囲気がいくぶん和らぎ、規制線もやや後退していた。だが、鉄柵の向こう、マンションへと突っ込んだ一両目の残骸は依然として取り除か... -
西村京太郎を模倣し『JR福知山線脱線事故』を題材にした小説「終着駅の迷宮」(ラビリンス)プロローグ・第一章・第二章
プロローグ —揺れる車窓の果てに— 2005年4月25日午前9時18分。 陽射しはやわらかく、春の光が窓ガラスに映えていた。JR福知山線5418M快速電車は、日常の喧噪に取り込まれたまま、宝塚から尼崎へと向かっていた。 七両編成の電車は、定刻よりわずかに... -
松本清張を模倣し「地下鉄サリン事件」を題材にした小説『曇天の螺旋』第九十九章・第百章(完結編)
第九十九章 無記の都市 ──西暦2025年7月。東京都千代田区。 永田町の片隅、かつて国家中枢を見下ろすように建てられた内閣情報局別館の地下にて、ひとつの会議が開かれていた。 議題は一つ──“記録社会の終焉と、それに続く都市管理体制の再構築”。 会議に... -
松本清張を模倣し「地下鉄サリン事件」を題材にした小説『曇天の螺旋』第九十七章・第九十八章
第九十七章 都市の境界線 防災庁・第七分局監視室── 仄暗いモニター室の中で、宗像副室長は背筋を伸ばしたまま、無言のまま画面を見つめていた。 モニターには、明らかに“存在している”のに、“記録として保存されない”人々の姿が、断続的に映し出されてい... -
松本清張を模倣し「地下鉄サリン事件」を題材にした小説『曇天の螺旋』第九十五章・第九十六章
第九十五章 記録されぬ者たちの都 東京都心・麹町── 朝七時三十分。薄曇りの空が、ビル群の間から陽光を鈍く差し込ませていた。 霞が関にほど近い場所にある防災庁旧第七分局跡地──現在は表向き「民間再開発区域」とされているが、地下には国家観測機構の... -
松本清張を模倣し「地下鉄サリン事件」を題材にした小説『曇天の螺旋』第九十三章・第九十四章
第九十三章 記録の死角 午後三時。都心の雑踏とは対照的に、品川区の臨海部にある旧倉庫群は、静まり返っていた。 赤錆にまみれた鉄扉。半ば崩れかけた煉瓦の壁。地図にも記載されていないこの区域は、かつて防衛施設庁の臨時保管所として使用されていた... -
松本清張を模倣し「地下鉄サリン事件」を題材にした小説『曇天の螺旋』第九十一章・第九十二章
第九十一章 記憶の引き金 東京・荒川区南千住── 七月末の午後、雷雲が東の空に膨らんでいた。 だが、かつて特異記録の「第Ⅱ群」に指定されていた一角──旧・都市記録補正支所跡のアパートの屋上では、別種の雷鳴が鳴り始めようとしていた。 三雲翔平は、屋... -
松本清張を模倣し「地下鉄サリン事件」を題材にした小説『曇天の螺旋』第八十九章・第九十章
第八十九章 断層 長野・上田市、旧電波観測所── 赤松の手元で、帝太一が遺したUSBメモリがわずかに震えた。 瞬間、床下の電磁波制御装置が低くうなり、部屋全体が微細に振動した。 「セキュリティ・アラート。……誰かが施設の周囲に侵入している」 三雲が...