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西村京太郎を模倣し、『JR福知山線脱線事故』を題材にした小説、「終着駅の迷宮」(ラビリンス)第九十九章
第九十九章 出口の設計者 1 薄曇りの高架下 午前九時、東京の空は金属を磨いたように鈍く、JRの高架下に規則的な轟音が落ちていた。西村は紙袋を片手に、古い喫茶店のドアを押した。カップの縁に口紅が残るほどの年代物の店で、テーブルは磨かれすぎ... -
西村京太郎を模倣し、『JR福知山線脱線事故』を題材にした小説、「終着駅の迷宮」(ラビリンス)第九十七章・第九十八章
第九十七章 影の同伴者 1 午前の庁舎 霞が関の朝は、ガラスの壁に冬の光を跳ね返していた。庁舎の廊下を歩く西村の靴音が、規則正しく響く。 会議室にはすでに若手検事と鑑定家・三輪がいた。机の上には、朱書きと鉛筆の二つの写しが並べられ、赤と... -
西村京太郎を模倣し、『JR福知山線脱線事故』を題材にした小説、「終着駅の迷宮」(ラビリンス)第九十六章
第九十六章 指紋のない朱 1 警告のベル 夜半、霞が関の庁舎に緊急地震速報のような短いベルが鳴った。システム管理室からの一斉通達――省内ネットワークに不審アクセス。対象は「外部説明・対話要旨」関連のフォルダ。 西村はソファから跳ね起き、上... -
西村京太郎を模倣し、『JR福知山線脱線事故』を題材にした小説、「終着駅の迷宮」(ラビリンス)第九十五章
第九十五章 開示の刻 1 薄明の庁舎 午前四時半、霞が関の空は鈍く白み、ビルの窓に薄い光が層をなした。西村は庁舎の廊下を一人歩いた。コンクリートに靴音が乾いて響くたび、ポケットの中のUSBが小さく触れ合い、金属音に似た気配を立てる。 机上... -
西村京太郎を模倣し、『JR福知山線脱線事故』を題材にした小説、「終着駅の迷宮」(ラビリンス)第九十三章・第九十四章
第九十三章 帰還 1 成田の朝 成田空港に降り立った瞬間、西村は胸の奥で微かな緊張が弾けるのを感じた。ロンドンで掴んだ断片は確かに手応えを与えた。しかし、それは同時に“ここ”――日本の内部に隠された迷宮を指し示していた。 出迎えの人波を抜け... -
西村京太郎を模倣し、『JR福知山線脱線事故』を題材にした小説、「終着駅の迷宮」(ラビリンス)第九十二章
第九十二章 霧の街で ロンドン上空で機体が旋回を始めた頃、窓の外には鉛色の雲が層を成し、時折、その裂け目から濁った銀の川がのぞいていた。テムズ。蛇のようにうねる水脈の縁に、光沢を押し殺した鋼とガラスの塔が群れている。 西村は小さく息を... -
西村京太郎を模倣し、『JR福知山線脱線事故』を題材にした小説、「終着駅の迷宮」(ラビリンス)第九十章・第九十一章
第九十章 告白の檻 1 記録室に集う影 曇天の朝、神戸市郊外の「歩廊(プロムナード)記録室」前には異様な熱気が立ち込めていた。遺族、市民、記者たちが入口を取り囲み、誰もが一様に緊張した面持ちで中の様子を窺っていた。 扉を押し開けて現れた... -
西村京太郎を模倣し、『JR福知山線脱線事故』を題材にした小説、「終着駅の迷宮」(ラビリンス)第八十八章・第八十九章
第八十八章 揺れる座標 1 霞が関の午後 外資顧問「L.M.」の名前が新聞に躍った翌日、国土交通省の会議室には異様な緊張感が漂っていた。 分厚いカーテンで閉ざされた室内で、幹部たちは互いに顔色を伺いながら資料をめくっていた。 「L.M.との契約... -
西村京太郎を模倣し、『JR福知山線脱線事故』を題材にした小説、「終着駅の迷宮」(ラビリンス)第八十六章・第八十七章
第八十六章 残響 1 神戸の朝 判決から一週間が経った。神戸の街は表面的には静けさを取り戻したように見えたが、その内側にはまだ波紋が広がり続けていた。新聞は「外資への言及」を大きく報じ、テレビの討論番組は「企業ガバナンスの再設計」を特集... -
西村京太郎を模倣し、『JR福知山線脱線事故』を題材にした小説、「終着駅の迷宮」(ラビリンス)第八十四章・第八十五章
第八十四章 判決 1 裁判所の朝 神戸地方裁判所の正門前は、朝から人で埋め尽くされていた。冷たい冬の風の中、傍聴席を求めて並ぶ長蛇の列。カメラを構える記者たちが通路を塞ぎ、マイクを握るリポーターが緊張した声でリハーサルを繰り返していた。...