西村京太郎– category –
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西村京太郎を模倣し、『JR福知山線脱線事故』を題材にした小説、「終着駅の迷宮」(ラビリンス)第八十四章・第八十五章
第八十四章 判決 1 裁判所の朝 神戸地方裁判所の正門前は、朝から人で埋め尽くされていた。冷たい冬の風の中、傍聴席を求めて並ぶ長蛇の列。カメラを構える記者たちが通路を塞ぎ、マイクを握るリポーターが緊張した声でリハーサルを繰り返していた。... -
西村京太郎を模倣し、『JR福知山線脱線事故』を題材にした小説、「終着駅の迷宮」(ラビリンス)第八十二章・第八十三章
第八十二章 最終弁論 冬の神戸の空は、白く濁った雲で覆われていた。吐く息がすぐに凍るような寒さの中、人々は神戸地裁の前庭に集まり、抽選券を握りしめて傍聴の順番を待っていた。最終弁論――裁判は、いよいよ終着駅へと走り出そうとしていた。 1 ... -
西村京太郎を模倣し、『JR福知山線脱線事故』を題材にした小説、「終着駅の迷宮」(ラビリンス)第八十章・第八十一章
第八十章 復元された議事録 神戸の朝は、灰色の雲に覆われていた。冬の気配が強まり、駅前を行き交う人々の吐く息は白く曇る。新聞の社会面には大きな文字が踊っていた。 《削除議事録、復元か 検察が新証拠提出へ》 記事は、事故直前に開かれた持... -
西村京太郎を模倣し、『JR福知山線脱線事故』を題材にした小説、「終着駅の迷宮」(ラビリンス)第七十八章・第七十九章
第七十八章 国境を越える影 神戸地裁の記者クラブには、朝から異様な熱気が漂っていた。各紙のデスクが電話で指示を飛ばし、テレビ局のクルーは機材を抱えて廊下を駆け抜ける。 ――検察がローレンス・マクスウェルを参考人として招致する。 その報せ... -
西村京太郎を模倣し、『JR福知山線脱線事故』を題材にした小説、「終着駅の迷宮」(ラビリンス)第七十六章・第七十七章
第七十六章 公開の証言 開廷十数分前から、神戸地裁の法廷前廊下は異様な熱気に包まれていた。 黒山の記者、肩を寄せ合う遺族、警備員の鋭い視線。廊下に並べられた長椅子には入りきれず、傍聴抽選に外れた人々がモニター中継室へ誘導されていく。 ... -
西村京太郎を模倣し、『JR福知山線脱線事故』を題材にした小説、「終着駅の迷宮」(ラビリンス)第七十五章
第七十五章 外部取締役の影 雨は上がったはずなのに、神戸地裁の石畳はいつまでも濡れて見えた。朝の空気は冷たく、背広の裏地まで湿りを含んでいる。検事・西村は庁舎の壁にもたれ、封筒のコピーをもう一度目でなぞった。 ――《安全投資の今期繰延(案... -
西村京太郎を模倣し、『JR福知山線脱線事故』を題材にした小説、「終着駅の迷宮」(ラビリンス)第七十三章・第七十四章
第七十三章 会議室の亡霊 六月半ばの朝、神戸地方裁判所の周辺には、いつも以上の報道陣が詰めかけていた。 傘を差した記者たちが玄関前に列をなし、手元の携帯端末で絶えず記事を送信している。中継車のアンテナが空へ突き立ち、まるで戦場の前線基... -
西村京太郎を模倣し、『JR福知山線脱線事故』を題材にした小説、「終着駅の迷宮」(ラビリンス)第七十一章・第七十二章
第七十一章 頂点の影 法廷の空気は、これまで以上に緊迫していた。 内部メールという“決定的証拠”が提出されたことで、これまで防御一辺倒だった検察は一気に攻勢に転じた。次に狙うのは――経営陣。組織の頂点に立つ人間たちである。 証人申請の衝撃 ... -
西村京太郎を模倣し、『JR福知山線脱線事故』を題材にした小説、「終着駅の迷宮」(ラビリンス)第六十九章・第七十章
第六十九章 沈黙の壁 法廷を出た田所正志の背中を、多くの視線が追っていた。 記者たちは口々に「組織的隠蔽」という言葉を繰り返し、テレビカメラが赤いランプを光らせて彼の姿を映す。 しかし田所は立ち止まらず、うつむいたまま裁判所の石段を降... -
西村京太郎を模倣し、『JR福知山線脱線事故』を題材にした小説、「終着駅の迷宮」(ラビリンス)第六十七章・第六十八章
第六十七章 証言の裂け目 法廷の空気は、もはや日常のそれとはかけ離れていた。 梅雨明けの強い陽射しが法廷の窓から斜めに差し込み、傍聴席に集まった人々の顔を白く照らし出している。六月から続いた公判も、すでに夏を迎えていた。汗をぬぐう人々...