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松本清張を模倣し「地下鉄サリン事件」を題材にした小説『曇天の螺旋』第九十九章・第百章(完結編)
第九十九章 無記の都市 ──西暦2025年7月。東京都千代田区。 永田町の片隅、かつて国家中枢を見下ろすように建てられた内閣情報局別館の地下にて、ひとつの会議が開かれていた。 議題は一つ──“記録社会の終焉と、それに続く都市管理体制の再構築”。 会議に... -
松本清張を模倣し「地下鉄サリン事件」を題材にした小説『曇天の螺旋』第九十七章・第九十八章
第九十七章 都市の境界線 防災庁・第七分局監視室── 仄暗いモニター室の中で、宗像副室長は背筋を伸ばしたまま、無言のまま画面を見つめていた。 モニターには、明らかに“存在している”のに、“記録として保存されない”人々の姿が、断続的に映し出されてい... -
松本清張を模倣し「地下鉄サリン事件」を題材にした小説『曇天の螺旋』第九十五章・第九十六章
第九十五章 記録されぬ者たちの都 東京都心・麹町── 朝七時三十分。薄曇りの空が、ビル群の間から陽光を鈍く差し込ませていた。 霞が関にほど近い場所にある防災庁旧第七分局跡地──現在は表向き「民間再開発区域」とされているが、地下には国家観測機構の... -
松本清張を模倣し「地下鉄サリン事件」を題材にした小説『曇天の螺旋』第九十三章・第九十四章
第九十三章 記録の死角 午後三時。都心の雑踏とは対照的に、品川区の臨海部にある旧倉庫群は、静まり返っていた。 赤錆にまみれた鉄扉。半ば崩れかけた煉瓦の壁。地図にも記載されていないこの区域は、かつて防衛施設庁の臨時保管所として使用されていた... -
松本清張を模倣し「地下鉄サリン事件」を題材にした小説『曇天の螺旋』第九十一章・第九十二章
第九十一章 記憶の引き金 東京・荒川区南千住── 七月末の午後、雷雲が東の空に膨らんでいた。 だが、かつて特異記録の「第Ⅱ群」に指定されていた一角──旧・都市記録補正支所跡のアパートの屋上では、別種の雷鳴が鳴り始めようとしていた。 三雲翔平は、屋... -
松本清張を模倣し「地下鉄サリン事件」を題材にした小説『曇天の螺旋』第八十九章・第九十章
第八十九章 断層 長野・上田市、旧電波観測所── 赤松の手元で、帝太一が遺したUSBメモリがわずかに震えた。 瞬間、床下の電磁波制御装置が低くうなり、部屋全体が微細に振動した。 「セキュリティ・アラート。……誰かが施設の周囲に侵入している」 三雲が... -
松本清張を模倣し「地下鉄サリン事件」を題材にした小説『曇天の螺旋』第八十七章・第八十八章
第八十七章 終端座標 午前二時過ぎ。 記録室の仮設オフィスでは、壁一面に拡げられた記録と、幾重にも貼り重ねられたフローチャートが、まるで都市計画図のように鈍く照明に浮かび上がっていた。 「ここにある。すべての交点が、ある一点を指している」 ... -
松本清張を模倣し「地下鉄サリン事件」を題材にした小説『曇天の螺旋』第八十五章・第八十六章
第八十五章 影の検証者 東京・神田―― 灰色の空から細かな雨が降り続いていた。 記録室仮設拠点。 防音処理の施された地下の一室で、赤松は独りきり、光の漏れぬディスプレイを前に座っていた。 画面には、例の“模倣サイト”――《RECORDS-J》が映し出されて... -
松本清張を模倣し「地下鉄サリン事件」を題材にした小説『曇天の螺旋』第八十三章・第八十四章
第八十三章 封印の顔 東京・千代田区某所。元・特定調査官の連絡拠点。 午後十一時を過ぎた時刻。赤松と高瀬は、半ば廃墟のような旧ビルの一室を訪れていた。そこはかつて、内閣情報調査室の外部協力者が秘密裏に使用していた“非公認通信拠点”だった。 ... -
松本清張を模倣し「地下鉄サリン事件」を題材にした小説『曇天の螺旋』第八十一章・第八十二章
第八十一章 偽証の迷路 東京・杉並区高円寺の一角、古びた喫茶店「シュヴァルツェン」に三雲翔平の姿があった。 重く垂れたカーテンの隙間から午前の日差しが斜めに差し込む。静かな空間に、小型プロジェクターの光が壁に淡く揺れていた。投影されている...