佐藤愛子– category –
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佐藤愛子
佐藤愛子を模倣し、野坂昭如の「火垂るの墓」時代を題材にした完全オリジナル長編小説『灰の味――或る少年の季節』
第58章 影が示した“拾い上げる生活” 翌朝、少年は胸の奥の灯が、いつもより低い位置で揺れていることに気づいた。 灯は弱っているのではない。 むしろ、土に近づいたかのように、落ち着いた脈をしていた。 節子の影は、もはや影というより“灯の姿... -
佐藤愛子
佐藤愛子を模倣し、野坂昭如の「火垂るの墓」時代を題材にした完全オリジナル長編小説『灰の味――或る少年の季節』第五十六章・第五十七章
第56章 影の薄明りが残した“持ち帰るもの” 翌朝、少年は胸の奥を包むような、やわらかな呼吸で目を覚ました。 節子の影はもう、影と呼ぶには薄すぎるほどに、 灯のほうへ寄りすぎている。 影らしい重さが完全に消えてしまうと、 不安になるかと... -
佐藤愛子
佐藤愛子を模倣し、野坂昭如の「火垂るの墓」時代を題材にした完全オリジナル長編小説『灰の味――或る少年の季節』第五十四章・第五十五章
第54章 影の輪の中で笑った日 数日ぶりに、少年は目を覚ましたとき、自分が寝息を立てていたことに気づいた。 眠ったのではなく、「眠れていた」と言うほうが正しい。 戦災のさなか、眠りはいつも割り込まれるものだった。空襲のサイレン、腹の虫、... -
佐藤愛子
佐藤愛子を模倣し、野坂昭如の「火垂るの墓」時代を題材にした完全オリジナル長編小説『灰の味――或る少年の季節』第五十二章・第五十三章
第52章 影の灯りが照らした“生活のはじまり” 翌朝、少年は胸の奥の灯りが、昨夜よりも静かに、そして深く座り込んでいるのを感じた。 節子の影は、押す影のときよりもはるかに穏やかだった。 押していた頃は胸の奥がざわざわしていたが、 いまは... -
佐藤愛子
佐藤愛子を模倣し、野坂昭如の「火垂るの墓」時代を題材にした完全オリジナル長編小説『灰の味――或る少年の季節』
第50章 影が離れても、胸の奥に残るもの 朝は、いつになく長く静かだった。 少年は胸の奥で“空洞”の輪郭が広がっているのを感じた。 昨日よりもはっきり、そして乾いていた。 湿りはもう一滴も残っていない。 影の押す温かさすら、薄まっている... -
佐藤愛子
佐藤愛子を模倣し、野坂昭如の「火垂るの墓」時代を題材にした完全オリジナル長編小説『灰の味――或る少年の季節』第四十八章・第四十九章
第48章 影の押す手が胸に触れた日 翌朝、少年は深い呼吸で目を覚ました。 昨日よりも肺が軽く、胸が広がっている気がした。 節子の影が喋り、歩き、宿をつくってからというもの、 少年の胸の奥の“湿り”が完全に消えていた。 湿りが消えると、世... -
佐藤愛子
佐藤愛子を模倣し、野坂昭如の「火垂るの墓」時代を題材にした完全オリジナル長編小説『灰の味――或る少年の季節』第四十六章・第四十七章
第46章 影が沈む朝、そして残る声 節子の影が言葉を発してから、夜はしばらく動かなかった。 世界がその一言を受け止めるのに時間をかけているようだった。 “生きたかった”という言葉は、火の残り香よりも濃く、 死の匂いよりも重く、その夜の空... -
佐藤愛子
佐藤愛子を模倣し、野坂昭如の「火垂るの墓」時代を題材にした完全オリジナル長編小説『灰の味――或る少年の季節』
第44章 影が言葉になる前に 少年は、夜明けの手前で目を覚ました。 昨日よりも胸が湿っていた。 湿りというより、胸の奥に薄い布が貼りついた感覚—— 呼吸のたびに、その布がふわりと動く。 これは痛みではない。 悲しみでもない。 節子の影... -
佐藤愛子
佐藤愛子を模倣し、野坂昭如の「火垂るの墓」時代を題材にした完全オリジナル長編小説『灰の味――或る少年の季節』第四十二章・第四十三章
第42章 影の声が濡れる朝 翌朝、胸の奥でまた微かな疼きがした。 痛みではない。 泣いているわけでもない。 ——影の息が湿っている。 喉の奥に湿った空気が引っかかるような、そんな感覚だった。 節子が夜のあいだ、ちゃんと寝床で眠ったのか... -
佐藤愛子
佐藤愛子を模倣し、野坂昭如の「火垂るの墓」時代を題材にした完全オリジナル長編小説『灰の味――或る少年の季節』第四十章・第四十一章
第40章 影の食卓 翌朝、少年は胸の奥の骨の痛みで目を覚ました。 痛みは鋭くはなかったが、鈍く、重く、沈んだ。 まるで、自分の肋骨のひとつが、夜のあいだに勝手に成長しすぎた子どものように騒ぎ始めたのだ。 痛みがあるということは、影がま...