佐藤愛子– category –
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佐藤愛子
佐藤愛子を模倣し、野坂昭如の「火垂るの墓」時代を題材にした完全オリジナル長編小説『灰の味――或る少年の季節』第七十章・第七十一章
第70章 灯の匂い──影が胸の奥で腐りかける 沈黙が続く三日目の朝、少年は胸に違和感を感じて飛び起きた。 空席が“腐りかけの匂い”を放っていたのだ。 腐敗ではない。 敗れた布の匂いでもない。 人と灯の間にこびりついた、 影の生臭さだった... -
佐藤愛子
佐藤愛子を模倣し、野坂昭如の「火垂るの墓」時代を題材にした完全オリジナル長編小説『灰の味――或る少年の季節』第六十八章・第六十九章
第68章 待つ手の生活──灯が来ないまま温度だけが残る 翌朝、少年が胸に手を当てても、 灯は相変わらず座らなかった。 整えられた空席の前に、 ひっそりと佇んでいるのに、 座ろうとはしない。 節子の灯は奥の部屋で眠るように揺れ、 呼吸を... -
佐藤愛子
佐藤愛子を模倣し、野坂昭如の「火垂るの墓」時代を題材にした完全オリジナル長編小説『灰の味――或る少年の季節』第六十四章・第六十五章
第64章 灯の空白──影が触れずに残した席 返す灯を影の輪に置いた翌朝、 少年は胸の奥に“穴のような静けさ”を感じた。 灯が消えたわけではない。 節子の灯も、小さく息づいている。 昨日まで重さを主張していた預かりの灯も、 返す灯もなくな... -
佐藤愛子
佐藤愛子を模倣し、野坂昭如の「火垂るの墓」時代を題材にした完全オリジナル長編小説『灰の味――或る少年の季節』第六十二章・第六十三章
第62章 灯を預かる日——影が静かに手を添えた朝 翌朝、少年は胸の奥の灯が“重くなっている”のを感じた。 重いといっても、痛いとか苦しいとかではない。 まるで誰かの体温をそのまま受け取ったような、 湿った温かさのある重みだ。 節子の灯は奥... -
佐藤愛子
佐藤愛子を模倣し、野坂昭如の「火垂るの墓」時代を題材にした完全オリジナル長編小説『灰の味――或る少年の季節』第六十章・第六十一章
第60章 灯の受け皿——影が渡した“受け取る生活” 翌朝、少年は胸の灯が「受け皿」のような形になっていることに気づいた。 灯には形がないはずなのに、 胸の奥でゆっくり揺れているそれは、 まるで“何かを受け取るためにそこにある器”のように感じ... -
佐藤愛子
佐藤愛子を模倣し、野坂昭如の「火垂るの墓」時代を題材にした完全オリジナル長編小説『灰の味――或る少年の季節』
第58章 影が示した“拾い上げる生活” 翌朝、少年は胸の奥の灯が、いつもより低い位置で揺れていることに気づいた。 灯は弱っているのではない。 むしろ、土に近づいたかのように、落ち着いた脈をしていた。 節子の影は、もはや影というより“灯の姿... -
佐藤愛子
佐藤愛子を模倣し、野坂昭如の「火垂るの墓」時代を題材にした完全オリジナル長編小説『灰の味――或る少年の季節』第五十六章・第五十七章
第56章 影の薄明りが残した“持ち帰るもの” 翌朝、少年は胸の奥を包むような、やわらかな呼吸で目を覚ました。 節子の影はもう、影と呼ぶには薄すぎるほどに、 灯のほうへ寄りすぎている。 影らしい重さが完全に消えてしまうと、 不安になるかと... -
佐藤愛子
佐藤愛子を模倣し、野坂昭如の「火垂るの墓」時代を題材にした完全オリジナル長編小説『灰の味――或る少年の季節』第五十四章・第五十五章
第54章 影の輪の中で笑った日 数日ぶりに、少年は目を覚ましたとき、自分が寝息を立てていたことに気づいた。 眠ったのではなく、「眠れていた」と言うほうが正しい。 戦災のさなか、眠りはいつも割り込まれるものだった。空襲のサイレン、腹の虫、... -
佐藤愛子
佐藤愛子を模倣し、野坂昭如の「火垂るの墓」時代を題材にした完全オリジナル長編小説『灰の味――或る少年の季節』第五十二章・第五十三章
第52章 影の灯りが照らした“生活のはじまり” 翌朝、少年は胸の奥の灯りが、昨夜よりも静かに、そして深く座り込んでいるのを感じた。 節子の影は、押す影のときよりもはるかに穏やかだった。 押していた頃は胸の奥がざわざわしていたが、 いまは... -
佐藤愛子
佐藤愛子を模倣し、野坂昭如の「火垂るの墓」時代を題材にした完全オリジナル長編小説『灰の味――或る少年の季節』
第50章 影が離れても、胸の奥に残るもの 朝は、いつになく長く静かだった。 少年は胸の奥で“空洞”の輪郭が広がっているのを感じた。 昨日よりもはっきり、そして乾いていた。 湿りはもう一滴も残っていない。 影の押す温かさすら、薄まっている...