佐藤愛子– category –
-
佐藤愛子
佐藤愛子を模倣し、野坂昭如の「火垂るの墓」時代を題材にした完全オリジナル長編小説『灰の味――或る少年の季節』第九十六章・第九十七章
第九十六章 灯の臨界──影が「もう一歩」を数えた夜 夜、少年は自分の胸が、ふいに“熱くなりすぎる瞬間”を持つことに気づいた。 灯が戻らない日が続いている。 沈黙も、残響も、手触りも、どれも「確かめない確かさ」の側へ寄っている。 それは、... -
佐藤愛子
佐藤愛子を模倣し、野坂昭如の「火垂るの墓」時代を題材にした完全オリジナル長編小説『灰の味――或る少年の季節』第九十四章・第九十五章
第九十四章 灯の沈黙──影が「聞かない」を選んだ午後 昼前、少年は胸の奥が静かすぎることに気づいた。 音が消えたのではない。 消えたのは、音を探す癖だ。 残響を確かめようと耳を澄ます、その身構えが、今日は起きなかった。 灯は戻らない。... -
佐藤愛子
佐藤愛子を模倣し、野坂昭如の「火垂るの墓」時代を題材にした完全オリジナル長編小説『灰の味――或る少年の季節』第九十二章・第九十三章
第九十二章 灯の片道切符──影が「戻らない」を責めなかった日 朝、少年は胸の奥で、灯がひとつだけ「片道」を選んだ気配を感じた。 行き先が仮置きされ、途中が居場所になり、輪が閉じないまま保たれている。 その状態が続くと、ふいに、灯は“試し... -
佐藤愛子
佐藤愛子を模倣し、野坂昭如の「火垂るの墓」時代を題材にした完全オリジナル長編小説『灰の味――或る少年の季節』第八十八章・第八十九章
第八十八章 灯の預かり──影が期限を決めなかった午後 昼過ぎ、少年は胸の奥に「期限のない包み」を抱えたような感触を覚えた。 受け取ったが、所有していない。 返せるが、急がない。 そんな矛盾を、灯は矛盾のまま胸に置いていた。 昨日、返せ... -
佐藤愛子
佐藤愛子を模倣し、野坂昭如の「火垂るの墓」時代を題材にした完全オリジナル長編小説『灰の味――或る少年の季節』第八十四章・第八十五章
第八十四章 灯の重さ──影が量らなかった夕方 夕方、少年は胸の奥に「重さ」が戻ってきていることに気づいた。 重たい、と言ってしまえばそれまでだが、 それは鉛のように沈む重さではなく、 持ち上げなくても落ちない重さだった。 呼吸は相変わ... -
佐藤愛子
佐藤愛子を模倣し、野坂昭如の「火垂るの墓」時代を題材にした完全オリジナル長編小説『灰の味――或る少年の季節』第八十二章・第八十三章
第八十二章 灯の居残り──影が席を温め続けた朝 朝、少年は目を覚ました瞬間に、胸の奥で「居残る」という決断が行われた気配を感じた。 昨夜、戻ってきた灯は、鳩尾のあたりで静かに呼吸をしていたが、今朝はそれよりも深く、骨の内側に腰を落ち着け... -
佐藤愛子
佐藤愛子を模倣し、野坂昭如の「火垂るの墓」時代を題材にした完全オリジナル長編小説『灰の味――或る少年の季節』第八十章・第八十一章
第八十章 灯の呼び名──影が兄をやめさせなかった朝 翌朝、少年は、胸の内側で「誰かに名前を呼ばれた」ような気配で目を覚ました。 耳には何も聞こえない。 布団の上には誰もいない。 だが、鳩尾のあたりで小さく灯が揺れ、その揺れ方が、 まる... -
佐藤愛子
佐藤愛子を模倣し、野坂昭如の「火垂るの墓」時代を題材にした完全オリジナル長編小説『灰の味――或る少年の季節』第七十六章・第七十七章
第七十六章 灯をゆだねる足──影がそっと前へ押した 翌朝、少年はいつもより遅く目を覚ました。 背中にはまだ、影の背もたれの感触が残っている。 胸の奥では、隣に座った灯が、 昨夜と同じ姿勢のまま、 しかしどこか――前のめりになって揺れてい... -
佐藤愛子
佐藤愛子を模倣し、野坂昭如の「火垂るの墓」時代を題材にした完全オリジナル長編小説『灰の味――或る少年の季節』第七十四章・第七十五章
第七十四章 灯が隣に座った夕方──影が背もたれになった 翌朝、少年が目を開ける前に、 胸の奥で「こつん」と、 何かが自分の肩に当たる感覚があった。 夢だろうと最初は思った。 だが、目を閉じたまま耳を澄ますと、 胸の奥の空席のあたりか... -
佐藤愛子
佐藤愛子を模倣し、野坂昭如の「火垂るの墓」時代を題材にした完全オリジナル長編小説『灰の味――或る少年の季節』第七十二章・第七十三章
第72章 灯の欲──影が座りたがった夜 息の灯を抱えた翌朝、 少年は胸の奥で“揺れ方の変化”を感じた。 昨日までの灯は、 息だけで、沈黙と匂いを抱えていた。 しかし今朝の灯は、 胸の空席に 寄ろうとしている。 寄りたい。 座りたい。 ...