三島由紀夫– category –
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三島由紀夫を模倣し「太宰治」を題材にした小説『懺悔記』最終章
最終章 読者よ、君に告ぐ 六月の終わり、東京は黄砂を帯びた雨に濡れていた。私の書斎の窓にも、あの独特の薄黄の斑点がこびりつき、どこか記憶の影のように曇っていた。 “懺悔記”の最終稿は印刷所に渡り、初校も終わった。石田からは「ついに、お前... -
三島由紀夫を模倣し「太宰治」を題材にした小説『懺悔記』第十三章・第十四章
第十三章 紙背の声 書斎に、陽が差していた。 私は机の前に座り、何も書かれていない原稿用紙の上を、ただ凝視していた。その白さが、私に問いかけてくるようだった。お前はまだ語る資格があるのか、と。 私は既に、あらゆる“沈黙”を書いた。父の沈... -
三島由紀夫を模倣し「太宰治」を題材にした小説『懺悔記』第十一章・第十二章
第十一章 読者という怪物 出版記念の朗読会が開かれることになった。場所は、都内の古い講堂。木造の梁が美しく、壁にしみついたカビと歳月の匂いが、どこか“文学的空間”のような空気を醸していた。 編集者の石田は、相変わらず熱心だった。彼の手腕... -
三島由紀夫を模倣し「太宰治」を題材にした小説『懺悔記』第九章・第十章
第九章 純粋なる誤解 朝刊に、自分の名が載っていた。 社会面の下段、文化欄の隅。誰もが気づかぬような場所に、だが私にはあまりに鮮烈な活字が印字されていた。 「自殺した友人を題材に小説――元同人作家の“死者商法”」 その記事は、おそらく編... -
三島由紀夫を模倣し「太宰治」を題材にした小説『懺悔記』第七章・第八章
第七章 生の残響 ある朝、私は思いがけず泣いた。 理由は分からなかった。枕に顔を押しつけていたわけでもない。ただ、朝日が障子を透かして差し込み、まだ覚めきらぬ夢の残り香が部屋に漂っていたその瞬間、私の眼からは、涙が流れていた。 何かが... -
三島由紀夫を模倣し「太宰治」を題材にした小説『懺悔記』第五章・第六章
第五章 勝利という名の敗北 私は太宰に勝った――と、思った。 ある日、私はふと気づいたのだ。あの湿った夢も、血のような原稿も、狂気に手を染めた数日間の筆致も、それらすべてが一つの転回点を画していた。私は初めて、太宰の“内側”に入った。いや... -
三島由紀夫を模倣し「太宰治」を題材にした小説『懺悔記』第三章・第四章
第三章 亡霊としての太宰 太宰が死んでから、世界は静かになった。 いや、より正確に言うならば、私の世界が静まり返ったのだ。新聞は数日のあいだ彼の死を騒ぎ立てたが、東京の街はすぐにいつものざわめきを取り戻し、銀座には香水の香りが戻り、神... -
三島由紀夫を模倣し「太宰治」を題材にした小説『懺悔記』第一章・第二章
第一章 死に至る病としての美 その朝、私は破れてしまった靴を磨いていた。靴底の裂け目から覗く濡れたコンクリートは、まるで己が魂の亀裂のように不快で、しかも滑稽だった。自らの惨めを誇る――その技巧だけに生きてきた者にとって、こうした些細な不...
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